トマホーク配備「前倒し」でも半数は「旧型」調達 どうしてそんなに「敵基地攻撃能力」の導入を急ぐのか

2023年10月18日 06時00分
 防衛省は、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の配備開始を2025年度に1年前倒しするとともに、国産長射程ミサイルの開発と配備を早める検討も始めた。これらのミサイルの前倒し配備により、他国領域のミサイル基地などを破壊する敵基地攻撃能力(反撃能力)の導入が早まることとなる。政府は「厳しい安全保障環境」を理由に挙げるが、識者は国民的な合意を欠いたまま兵器だけをそろえても、防衛力強化にはつながらないと警鐘を鳴らす。(川田篤志)

◆防衛相就任直後、突然の「前倒し」…何があったのか

木原稔防衛相

 木原稔防衛相は9月の就任直後、トマホークと全種類の国産長射程ミサイルの前倒し取得を検討するよう指示。今月4日の日米防衛相会談では、トマホークを25〜27年度に順次取得することで一致した。昨年12月に閣議決定した安全保障関連3文書では、26年度以降に最新型の「ブロック5」を最大400発購入する予定だったが、半分を目標の識別能力がやや劣る旧型の「ブロック4」とすることで購入が早まった。
 木原氏は10日の記者会見で「より厳しい安保環境を踏まえて、前倒しする必要があると判断した」と説明。具体的には中国や北朝鮮、ロシアの軍事活動の活発化を挙げ「いつ力による一方的な現状変更が生起するか予測困難」と強調した。
 しかし、昨年12月以降、安保環境が劇的に変化したとは言い難く、前倒しする根拠は乏しい。トマホークの取得を早めるのが1年となった理由についても、十分な説明はない。

◆国産ミサイルも急がせて…品質や費用に不安

 26年度に予定する12式地対艦誘導弾や高速滑空弾など国産ミサイル開発と配備開始の前倒しも検討するが、実現の可能性は不透明だ。12日の自民党会合で防衛省側は「(開発する)メーカーに『急いでくれ』と交渉している最中」と説明するにとどめた。

防衛省

 早期導入にはリスクもある。開発期間を無理に短縮すれば、完成品に不具合が生じる可能性もある。開発企業の人手を大幅に増やして急ピッチで対応すれば、事業費が膨らみ国民負担の増加につながる恐れもある。同省内からも「口で言うのは簡単だが、実現は相当難しい」との声も漏れる。
 安全保障に詳しい流通経済大の植村秀樹教授は「省内で十分な検討がないまま、政治主導で強引に進めれば失敗する」と指摘。その上で「なぜミサイルの早期導入が必要なのか。政府の合理的で説得力のある説明は足りず、抑止力の向上につながるかも不透明。国民の理解や合意がないと、有事の対応はうまくいかない」と危ぶむ。

 敵基地攻撃能力 長射程ミサイルで他国領域の軍事拠点などを直接攻撃する能力。歴代政権は、敵の誘導弾攻撃などを防ぐためにやむを得ない場合は憲法上可能とする一方、平時から周辺国に脅威を与える攻撃的兵器を持つことは「憲法の趣旨ではない」として保有してこなかった。岸田政権は昨年末、ミサイル技術を深化させる中国や北朝鮮などに対処するため、安保関連3文書に保有を明記。憲法9条に基づく「専守防衛」の形骸化や、地域の軍拡競争を加速させる「安全保障のジレンマ」を引き起こすとの批判は根強い。

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