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クラスター対策班の最大の懸念は重症化する高齢者の増加。専門家の最新報告で見えたこと

日本感染症学会が「COVID-19シンポジウム」を開催。専門家会議の尾身茂副座長、クラスター対策班の押谷仁教授も登壇した。

日本感染症学会は「COVID-19シンポジウム」と題した特別シンポジウムを4月18日開催した。

登壇したのは新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の尾身茂副座長や厚労省のクラスター対策班を率いる東北大学大学院の押谷仁教授ら6人の専門家。

政府の専門家会議や厚労省クラスター対策班、研究、診療の立場からそれぞれが最新情報と課題を報告した。

BuzzFeed Newsは尾身副座長と押谷教授の報告から、感染が拡大する現状とそれに伴い変化する今後の対応策についてまとめた。

重症化リスクの患者は、1つでも肺炎疑い症状あるなら相談を

会の冒頭、日本における新型コロナ対策の現状を説明し、重症化を防ぐことに集中すべきと語ったのは新型コロナウイルス感染症対策専門家会議で副座長を務める尾身茂さんだ。

「新型インフルエンザによる死亡率、日本は圧倒的に低かった。このことを今回も実現したいと思います」と宣言。

その上で、感染が拡大しつつある状況を踏まえ、これまで提示していた基準を変更し、妊婦や高齢者、糖尿病や心不全、呼吸器疾患など基礎疾患のある患者など重症化リスクのある患者は、肺炎が疑われるような症状が1つでもある場合はすぐに相談センターに相談することが重要だとした。

「今までは例えば高齢者の方は症状が出て2日待つ、一般の方は4日待つということを言っていましたけれども、今回我々はもうここははっきり分けたい。重症化リスクの高い人、妊婦さん等は(肺炎を疑う症状が)何かあったら、4日なんて待たずに、もうこれは相談して、すぐ行ってもらうことが極めて重要です」

引き続き持病がないなど重症化リスクの低い患者はよほど症状が悪化していない限り、これまでの基準を踏まえて相談することが望ましい。だが、重症化リスクを減らすために、メリハリをつけた対応を呼びかけた。

「緊急事態宣言が出た今は、リスクがある人はすぐ相談センターに相談し、PCR検査に結びつくことで重症化を防ぐことに集中したらいいんじゃないかと思います」

クラスター対策で見えてきたこと

次に、厚労省のクラスター対策班を率いる東北大学大学院の押谷仁教授がクラスター対策から見えてきたこと、そして対応策について語った。

新型コロナ、制御が難しい理由

押谷教授は2003年に流行したSARSと比較し、今回の新型コロナがなぜ制御が難しいのかを説明した。

SARSの場合、ほとんどのケースで重症化する。また死亡率も非常に高い。だが、新型コロナの場合は多くの場合は軽症、もしくは無症状だ。

「最大の違いは軽症例が多い、さらに無症候例もかなり多い。ここが最もこの感染症の制御を難しいものにしていると考えられます」

「17年まえのSARSの時に、WHOの中でこのSARSが今後変異をして感染しやすくなったらどうなるのだろうか?ということを議論したことがありました。その時に得られた結論はですね、おそらく軽症例が多くなって、非常に制御することが難しくなるだろうということを議論しました。そういうウイルスが今回出てきたと理解しています」

病態の違いへの理解も変化してきている。そんな中で、現状を押谷教授は整理した。

「重症化しても感染性が高い例もある。さらに難しいのが重症度が低くても感染性が高い場合がある。それがこの感染症の制御を非常に難しくしている」

感染させているのは一部だけ?

押谷教授は流行初期の段階で「感染者の濃厚接触者から誰も感染者が出ない」という現象が日本や世界各国で確認されていたと語る。

そこで浮かび上がるのは「なぜ、多くの人が感染させていないのに流行が起きるのか」という謎だった。

「単純な算数の問題として、誰かが多くの人に感染させていないと、感染連鎖は維持されていかないことになります。つまり、クラスターがなければ、この感染症の感染連鎖は自然に消滅していくことになります」

2月25日、厚労省でクラスター対策班が結成されたタイミングで、数理モデルをもとに新型コロナ対策を行う北海道大学の西浦博教授は一人の感染者がどれだけの人に感染させるのかというデータを持っていたと明かした。

「このデータを見ると、実は8割近くの人が誰にも感染させていない。10数%の人が一人にだけ感染させている。一方で、非常に多くの人に感染させる感染者が存在する。こういうことが、我々が今呼んでいるクラスターというものを生んでいることになります」

見えないリンクのリスク

「ほとんどの場合、感染連鎖は消えていきます。しかし、クラスターが生じて、つながっていくクラスター連鎖が起きると大きな流行になっていく。ここで難しいのは見えるリンクと見えないリンク、特に見えないリンクが存在するということです」

症状がない、もしくは軽い症状の場合そのリンクを追うことは難しい。その先に、クラスターが生じるリスクがあると押谷教授は言う。この傾向は特に、若い人たちの間で顕著だ。

「特にリンクが見えなくなるクラスターとしては、我々が『若年層クラスター』と呼んでいるものがあります。若い人たちは重症化する割合が非常に低いので、その間で集団感染が起きると追跡することが困難になります」

こうした感染のつながりが見えにくいクラスターが次のクラスターを生み出すと、大きなクラスターが形成されてしまうことがある。

「特に医療機関の医療従事者などで起きると、非常に大きな院内感染になる可能性があるということになります」

初期の対策、4つの選択肢の中で可能だったのは?

2月25日のクラスター対策班設置のタイミングで、全国で157例が確認されていた。その多くはリンクのない、感染源がたどれない例だったという。

「こういう例が多いということは感染連鎖を全て見つけることが非常に困難な状況にあった。そのような中で、我々はクラスター対策班としてCOVID-19の対策を始めました」

2月25日の段階で考えられた選択肢は以下の4つだった。

  1. クルーズ船やチャーター便の乗客に対して行ったように、すべての人にPCR検査を行う方法
  2. すべての医療機関でPCR検査を受けられるようにすること
  3. PCR検査の急速な拡充
  4. 現在の帰国者・接触者外来をはじめとする検査体制での対応


「すべての人にPCR検査をするということは到底できないわけで、次に考えられる方法としてはすべての医療機関でPCR検査をすること。2009年の新型インフルエンザの時は迅速診断キットが使えたので、ほぼすべての医療機関で検査ができる状況でした。今回は、あの時点では迅速診断キットがなかったので、この選択肢も存在しなかった」

「PCR検査を急速に拡充する。これは必要だと、繰り返し我々も言ってきました。ただし、新たな検査の立ち上げには病院や医師会の全面的な協力が必要です。同時に感染防備を万全にした安全な検査センターを立ち上げる必要がありました。そうすると、我々にあの時点で残されていた選択肢は今ある検査体制の中で、いかに流行を制御する体制を確立するかということでした」

それが、小規模な感染集団を追跡して、感染経路を断つ「クラスター対策」だった。

そんな中で繰り返し指摘してきたと押谷教授が語るのが、「2009年の新型インフルエンザの際の発熱外来の状況を作ってはいけない」ということだ。

「多くの人が外来に溢れる。あの時、外来で数時間待ちというようなところが多く見られましたが、ああいう状況を作るというのは非常に危険。いかに安全な検査センターを拡充していくかということが求められていました」

目的は救える命を救うこと

そして、これまでのクラスター対策で最優先としてきた目標は、重症者と死亡者をいかに減らすかだ。

「日本の新型コロナウイルスの目的としては社会・経済機能への影響を最小限としながら、感染拡大の抑制効果を最大限にする。これを最大の目的にしていました」

押谷教授はこのように説明する。

「感染拡大のスピードをできる限り抑制し、重症者の発生と死亡者を減らすこと」が重要であると認識を示した上で、3月19日に専門家会議の資料として西浦教授が作成したグラフが示す厳しい現実を改めて説明した。

「ここにある赤い線が集中治療の上限です。これを超えると、その瞬間から、救える命が救えなくなる。これをどうやって防ぐかが、我々の最大の目的でした」

そのためにも、クラスターの共通する特徴を見つけ出し、できるだけそうした環境を避けるような行動変容を呼びかける必要があったと振り返った。

なぜ「3密」を避けるべき?

クラスター対策班が調査を進めていく中で明らかとなってきたのは、「誰にも感染させていない人は多くの場合、密閉した環境にいない」ということだ。

その一方で、「誰かに感染させた、特に多くの人に感染させた人たちはほとんどが密閉された環境の中で他の人に感染をさせている」ということがわかったという。

そのデータをさらに詳細に分析すると、「特にクラスター患者の集積が起きる状況では、人が多く密集している」「密接した関係で発話がある」という特徴も明らかになっていった。

これが避けるべき「3密」の条件が定められた経緯だ。

スポーツジムなどで換気量が増大するような活動をすること、ライブハウスやカラオケなど大声を出して歌うことなどがクラスターが起きる上で重要な条件だと考えている。また、1対複数の密接した接触もクラスターが起こりうる条件だ。

ウイルス排出量、年齢で変化

ウイルス排出量が多い場合、他の人に感染させる可能性が高くなる。このウイルス排出量は「重症度ではなく年齢に関係する」と押谷教授は語る。

平均的に青壮年の人が上気道(鼻から喉まで)に持っているウイルス量は少ない。ただし例外的に多くのウイルスを持っている人が確認されているとした。

中高年は青壮年に比べると、より感染させる力が高い可能性があり、高齢者の場合は中高年よりもさらに感染性が高いことが考えられる。

重要なのはクラスターを制御すること


押谷教授は「重症度が低く、活動的な感染者が大きなクラスターを形成する可能性が高い」と指摘する。

規模の大きなクラスターを生んでいるケースは、その多くが微熱や咽頭痛などだけが確認されている感染者によるものだった。

「二次感染の多くは通常の飛沫感染、接触感染で説明できるのかもしれませんが、こういう例外的に多くの人に感染させる人がいることが、多くのクラスターを生んできている原因だと理解しています」

何よりも重要なのは、感染者、感染者との接触者、感染連鎖、クラスター連鎖を制御することだ。

「感染者、接触者、感染連鎖、クラスター連鎖は、把握して二次感染をコントロールできている限り、大規模な地域流行には繋がらないということです。少し地域に漏れ出しても、そういった感染連鎖は消えていきます」

「例えば、感染者が入院措置やそれに準じる措置に置かれていると、かなりコントロールできていることになります。その証拠はクルーズ船の乗客、乗員、チャーター便での帰国者が地域での流行につながっていないという事実です」

「医療機関や高齢者施設への感染連鎖は、感染者が誰と接触したか調べる積極的疫学調査がなされて、医療機関での対策ができている限りは、地域の流行につながっていかないことも明らかです」

「クラスター連鎖もリンクの大半が追えて、周囲に次の感染集団を作っていなければ、地域の流行につながりません。大阪であったライブハウスでのクラスターはかなり大きなつながりになりましたけれども、それでもあそこから地域流行が起きている証拠はありません」

対策行うための肝

対策を考える上では、その地域の感染状況と合わせて、社会・経済的影響のバランスを見る必要がある。その上で、「クラスター対策と行動変容は同時に行われる必要がある」と押谷教授は指摘する。

「クラスター対策だけではウイルスにきちんと対応できないので、行動変容を呼びかけていく。特に、最初に我々が見つけた3密をいかに回避するのかが非常に重要です。同時にイベントの自粛なども非常に重要だったと考えています」

実際、北海道では2月28日に独自の緊急事態宣言を出し、行動変容の強化を呼びかけた。

現在、進む第二波の流行を食い止めるために、営業や外出の自粛要請を含む行動変容の強化が呼びかけられている。

こうした呼びかけを行うためにも、地域の流行状況をリアルタイムで知る必要がある。そのため、クラスター対策班では誰から感染したかわからない「孤発例」のモニタリングと数理モデルによる分析を行ってる状態だ。

年代によって異なる感染拡大の傾向

世代別にクラスターを解析することで見えてきたのは、感染拡大の傾向に違いが見られるということだ。

「『若年層クラスター』という言葉を使ってしまって、あたかも若い人たちだけがこのウイルスを広げているという印象を与えてしまったのは実は間違い」と認めた上で、10代前半から50代までの青壮年と呼ばれる人が大人数で集まる機会が多いために感染を広げる傾向が見られると指摘した。

宴会やライブハウスなどで集まった際、その中に例外的にウイルスを多く排出している人がいると「非常に規模の大きなクラスターが形成されることがある」という。また、青壮年は移動が多いため、地域を超えて感染を拡大させることも多い。

一方、中高年の場合は、地域で交流の場をたくさん持つ元気な人が地域内での感染を拡大しているケースが見られる。また、出張や接待などの形で地域を超えた感染拡大にも影響していることが見えてきていると説明した。

高齢者は重症化しやすく、ウイルス量が多いために高齢者施設、病院内での感染拡大に寄与してる可能性が考えられるという。

見えてきた院内感染のメカニズム

さらに、最近、多発している院内感染についても分析している。

「感染者の多くは無症状、軽症です。日本のどこの医療機関でも無症状、軽症の感染者が新型コロナとわからずに医療機関を受診する可能性は考えておく必要があります」。

こう押谷教授は医療機関へ警鐘を鳴らす。

症状の重症度と感染性(感染させやすさ)は必ずしも比例しない。むしろ、軽症の感染者の方が、発症直後のウイルス量は高い傾向にあることが見えてきた。

だからこそ、気づかないうちに、感染連鎖が医療機関で起きてしまうケースを想定した対策をたてることが必要だ。

院内感染や施設内感染のメカニズムとしては、3つの密の環境で感染した医療従事者が気づかずにウイルスを病院に持ち込むケース、医療従事者の家族などから感染したケース、外勤先で感染して持ち込むケースが見られている。

また、感染が疑われないまま医療機関や高齢者施設や障害者施設に入院した感染者により、感染が広がるケースも確認されている。

そして大きな集団感染は、その多くが医療機関や福祉施設などで起きている傾向がある。

いま、最も危惧しているのは…

押谷教授が今、もっとも危惧しているのは医療崩壊によって、救える命が救えなくなることだ。

「重症者が集中治療のキャパシティを超えて発生してしまうと、これまでなら救えたはずの命が救えなくなる。こういうことが、東京中心に現実のものとなりつつあります。そして、こうした状況を急速に改善する必要があります」

現在の流行状況がなぜ起きたのか? そんな問いを立て、押谷教授はその問いに自ら答える。

「4月の8日、9日、10日にかなり大きな山があります。2週間前を考えると、あの3連休とその前の週。日本に住む人たちの気持ちが緩んだあの週の結果を我々は受け止めているんだという風に理解しています」

その上で、大都市から地方都市への感染拡大、地方の中核となる都市からその他の都市への感染拡大も確認されている。

今は「それぞれの県で、県庁所在地から周辺地域に感染が拡大しつつある段階」だ。これが意味することは、地方に多い高齢者への感染が拡大するリスクだ。

「高齢者が多く住んでいる施設や院内感染、施設内感染が起きると多くの人が重症化してくる。それが今、一番危惧されることです」

単純な患者数より気をつけるべきこと

患者数の単純な増加ではなく、地域内での流行を把握することが重要だと押谷教授は話す。

「東京で昨日200例を超えたということがかなり大きく報道されてきていますが、増加はいろいろなことが原因で起こります。むしろ、我々が注意してみなければいけないのは地域内での流行です」

「例えば、東京の何々区のある一定の地域で患者数が激増したとするならば、これは地域内での流行を示します。これは非常に危険な状況です」

東京では複数の病院で規模の大きな院内感染が確認されている。それによって感染者の数が一気に増えることがあるが、きちんと追跡し、それ以上の感染を食い止める対策を打てば、「地域の感染状況にはそれほど大きくは影響しない」という。

押谷教授は現段階では院内感染、施設内感染から新型コロナが地域に広がっている兆候はほとんど見られていないとした。

流行状況を観察する上では、単純な感染者数の増加ではなく、地域内での流行が起きているのかどうかをまず押さえる必要がある。

ウイルスと長期に渡って向き合わなくてはならない

最後に、行動変容を行うことができれば、「終息の方向に急速に向かわせることができる」と押谷教授は強調した。

「ただし、このウイルスは日本からも地球上からもしばらくなくなることはない。1年なのか、2年なのか、現時点ではわかりません。ただし、我々がこのウイルスと長期にわたって向き合わなくてはならないことは明白です」

だからこそ、感染拡大やそれに伴う医療崩壊を食い止めるためにも、医療者や研究者だけでなく、国民一人一人の協力が必要だという。

「大きな感染拡大を起こした国々が、必死になって抑え込もうとしています。そして、明るい光も見えつつあります。これから高齢者施設と病院での感染拡大を中心として、さらなる死亡者が出て来ることが予想されます。しかし、日本ではまだまだ低いレベルに保たれています」

「ウイルスと長期にわたって付き合っていく必要があるからこそ、医学だけでなく様々な知恵を結集することが必要です」