マイナ問題は「個人情報の漏洩」…デジタル庁が行政指導された意味 トラブル底なしでもこのまま進める?

2023年9月20日 21時04分
 マイナンバーに別人の公金受取口座を誤登録するミスが相次ぎ個人情報が漏えいした問題で、政府の個人情報保護委員会は20日、マイナンバー法に基づいてデジタル庁と国税庁を行政指導した。デジタル庁については全国民の生活に直結する個人データの安全管理対策の不備を問題視し、本人確認の手法や、個人情報漏えい時に適切に対応するよう改善を求めた。

 行政指導 個人情報保護法とマイナンバー法に基づく、行政機関を対象とした個人情報保護委員会による措置では、最も軽い位置付けとなる。対応の実施状況についてデジタル庁に対し文書で報告を求める。従わないなど悪質性の高い違反行為には是正を求める「勧告」をする。情報保護委による行政指導は最近では今年6月、個人情報を漏えいしたとして資源エネルギー庁に対して行われた。

 2021年9月に発足したデジタル庁への行政処分は初めて。政府が掲げるデジタル社会の司令塔になるはずのデジタル庁への異例の処分に発展した。信頼回復が急務となる。

講演する河野デジタル相=6日、仙台市(共同)

 情報保護委はデジタル庁に10月31日までに改善対応の実施状況について報告書を提出するよう求めた。国税庁では所得税の確定申告で納税者情報を登録する手順に不備があり、見直しを求めた。(共同)

◆【解説】信頼が崩れても機能する制度なのか

 マイナンバー制度を所管するデジタル庁に対し、個人情報保護委員会が個人情報の取り扱いの不備を是正するよう行政指導したことは、マイナ制度の根幹を揺るがす事態だ。国民が個人情報を行政機関に委ねるには信頼が不可欠だが、その前提は崩れた。政府は重く受け止め、制度自体の見直しに踏み出すべきだ。
 マイナ制度を巡っては当初から、個人情報の漏えいの懸念があった。案の定、デジタル庁が制度の普及を拙速に進めたことでトラブルは相次ぎ、識者らから「デジタル政策の司令塔としての役割を果たしていない」との批判は根強かった。

マイナンバー情報総点検本部の会合であいさつする岸田首相(手前)=8月、首相官邸

 今回、情報保護委が問題視した公金受取口座の誤登録について、河野太郎デジタル相は実務を担う自治体の「認識の薄さ」を指摘し、責任転嫁するような発言を繰り返した。しかし、情報保護委は20日の行政指導で「デジタル庁の保有個人情報の漏えいに該当する」として、責任を明確化した。
 マイナ制度を巡るトラブルは、公金受取口座にとどまらず底なしだ。特に国民が不安視するマイナンバーと健康保険証の医療情報とのひも付けミスは、これまでに8400件以上、確認されている。それにもかかわらず、政府は来年秋に現行の健康保険証を廃止し、マイナカードに一本化する方針を堅持する。
 共同通信が8月に実施した世論調査では、保険証の廃止延期や撤回を求めた人が77%に上る。今回の行政指導で、マイナ制度への国民の不信感はより強まった。国民の声を無視して強行しても制度がうまく機能するはずがない。(山口登史)

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