アングル:ガザ空爆黙認のバイデン氏に国内から反発、大統領選に落とし穴も

アングル:ガザ空爆黙認のバイデン氏に国内から反発、再選に落とし穴も
10月24日、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が始まった後、バイデン米大統領が鮮明に打ち出したイスラエル支持の姿勢が、米国のアラブ系市民やイスラム教徒らの批判の的になっている。写真は21日、ワシントンでガザでの停戦を訴えるムスリム系米国人の団体(2023年 ロイター/Bonnie Cash)
[ワシントン 24日 ロイター] - イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が始まった後、バイデン米大統領が鮮明に打ち出したイスラエル支持の姿勢が、米国のアラブ系市民やイスラム教徒らの批判の的になっている。
バイデン氏は彼らから、パレスチナ自治区ガザの人道危機回避に向けてもっと努力するよう求められており、対応を怠れば来年の米大統領選で支持を失いかねない状況だ。
多くのアラブ系市民が怒っているのは、イスラエルの空爆から逃れようとしているパレスチナ人が次々に命をなくしている中でも、バイデン氏が人道上の観点から停戦を推進しようとしない点だ、と学者や市民団体関係者、イスラム教徒のコミュニティー、あるいは政権幹部らは指摘する。
そうした不満の高まりは、バイデン氏の再選戦略に影響を及ぼす恐れがある。足元の世論調査を踏まえれば、バイデン氏と大統領選で対決する野党共和党候補はトランプ前大統領になる公算が大きいが、同氏とは2020年の前回選挙において幾つかの激戦州で際どい勝負を演じた。
ミシガンでの得票率はバイデン氏が50.6%、トランプ氏が47.8%、ペンシルベニアではバイデン氏50.01%、トランプ氏48.84%で票数にして8万1000票弱にとどまる。
アラブ・アメリカン研究所のジム・ゾグビー所長によると、そのミシガンの有権者に占めるアラブ系の比率は5%、ペンシルベニアとオハイオも1.7─2%に上る。
複数の市民団体関係者は、アラブ系やイスラム教徒がトランプ氏を支持することはなさそうだが、大統領選を棄権してバイデン氏には投票しない可能性は出てくるとの見方を示した。
ガザで支援活動を行っているライラ・エルハダド氏は、バイデン氏が今の態度のままならば、ミシガンにおける得票でツケを払わされると思う、と述べた。
米国のアラブ系市民は、ハマスが7日にイスラエルの民間人を襲撃したことを非難しつつも、イスラエルの空爆などによる反撃は度を越しており、これを糾弾しないバイデン氏は、果たして「人権重視」の外交を実践しているのか大いに疑問だと訴えている。
<切実な停戦要求>
米国で最も単位人口当たりのイスラム教徒が多いミシガン州ディアボーン市で、初めてアラブ系の市長となったアブドラ・ハモウド氏は、ガザへの水や電気、食料供給を遮断したイスラエルをバイデン氏が非難しないことをやり玉に挙げている。
ハモウド氏は「われわれの声が、自分たちを守ってもらおうとして代表に選んだ人々の手で完全に消されてしまうのは、全く想定していなかった。ガザに閉じ込められたわれわれの家族は無視され、われわれによる停戦の呼びかけは、戦争の太鼓で押し流されてしまった」とX(旧ツイッター)で訴えた。
ホワイトハウスは、バイデン氏や他の政権高官が繰り返しガザにいる米国人の解放を働きかけていると説明。バイデン氏は24日、ガザへの支援物資到着スピードが十分でないとも発言した。
ニューヨークのアラブ系米国人団体幹部だったリンダ・サーサワー氏は、21日に開かれたイスラム教市民団体「米イスラム関係評議会(CAIR)」の集会で、米国の外交政策が修正されることを条件として政治献金をするべきだと参加者に提言した。
アラブ系の多くの人々が望んでいるのは、バイデン氏がイスラエルにガザへの攻撃を一時的に停止するよう促してくれることだ。
CAIRは、イスラエルのガザ空爆はもはやジェノサイド(民族大量虐殺)の域に達しており、米政府が手をこまねいているなら同罪だと主張している。
バイデン氏がイスラエル向けに140億ドル余りの新たな支援を行おうとしていることも、アラブ系の反発を招いている。
ペンシルベニアの大学で平和・紛争問題を教えているクエーカー教徒のパレスチナ系米国人、サエド・アトシャン氏は「バイデン氏の言動は信じられない。イスラエルに次々に何十億ドルもの軍事支援を試みつつ、パレスチナ人への人道支援は1億ドル程度だ」と憤る。
いつもはバイデン氏の政策を何の注文もつけずに応援してきたオバマ元大統領さえ、23日には政権に助言を送った。絶望感を増しているガザの人々向けの重要な支援や物資提供を加速させる取り組みにおいて、米国は引き続き世界をリードするべきだと述べた。
<政策に反映されない多様性>
バイデン氏は、歴代のどの大統領よりも多くのアラブ系やイスラム教徒を政府のポストに起用してきたし、初めてイスラム教徒の連邦判事2人を誕生させた。しかし「シオニスト(ユダヤ民族主義者)」を自称する同氏の下では、こうした多様性が政策に反映されていない。
ホワイトハウスは、政権の中東政策に批判が出ているのは承知していて、イスラムコミュニティーなどとの対話を進めていると表明。また、バイデン氏が公的な場、あるいは水面下でガザ支援の道筋が確実になるよう動いていると強調した。
ただ、先週には11年にわたって国務省に勤務し、直近では政治軍事局の議会・広報部長を務めていたジョシュ・ポール氏が、イスラエルへの軍事支援に納得がいかないとして辞任した。
同氏はリンクトインへの投稿で「ガザの人々が抹殺される事態に直面しているのに、盲目的にイスラエルへの武器供給を急いでいる」という自身の懸念を首脳部が聞き入れてくれなかったと述べた。

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