エビデンスとは極言すれば、決めるためのツールなんだろう。統計でこういう結果だったから、同じような状態の人にはこの治療をしなさい、というように。だから、個人因子や環境因子など要素の多い生活場面でエビデンスを求めるのは、意欲的であると思う。個人因子、環境因子を無視してエビデンスだけに従うと、生活場面では的はずれな治療になりそうで、恐ろしくもある。
治療をするためには根拠、つまりエビデンスが必要と言われ続けてきたが、生活場面にも敷衍しようというのは科学の進歩だと思わないではいられない。
本書は中核症状の記憶障害、見当識障害から徘徊、抑うつなどのBPSD、さらには生活、活動についてもエビデンスを挙げて解説される。それぞれのエビデンスは規模や方法など詳細まではあまり載っていない。まあすべてにそれをやるとページが増えすぎてしまうのだろう。
見当識障害に対して環境を調整することで改善することが、様々な文献を挙げて紹介される。照明や外出により一定時間光を浴びることや雑音の除去、自室やベッドを認識するために手書きの名前や自分の写真を用いて視覚的に認識を助けることなど。施設的な環境より家庭的な環境の方が活動が促進されたようだ。エビデンスの具体的な詳細は載っていないので文献に当たらないといけない。一方、著者の研究については詳しいところもある。活動性が低下すると焦燥感や抑うつなどBPSDが増加する。そのため活動性を上げるために音楽と家族からのビデオレターを比較するとビデオレターの方が焦燥感の低下に効果を示したという(p139)。もう一つ海外の研究でも人形、ロボット、馴染みのスタッフとの会話で比較し、スタッフとの会話が最も長い活動につながった。単なる刺激の導入だけでは足らないことを教えてくれる。昨今の何でもロボットというのも、実はそうではないのだろう。
本書の後半⅓ほどで個々の症例について解説がある。病院や施設ごとに分類され異なる対応が説明される。それぞれは要点がまとめられ端的である。
自発性低下、全介助、抑うつのある方(p249)で作業療法によって集団活動まで可能になり、患者さんが「こういう場でしか話せないこともあるのよね」と語ったことが紹介され、印象的だった。社交的で病前にやっていたことがうまく企画され、その方の空白を埋め改善に一役買っているのが素晴らしい。また身体機能はあるが、自発性が低下したために動けず排泄もオムツにしていたのを、ベッド上の訓練から離床につなげ趣味、集団活動とつなげ、排泄まで自立させていく流れがなるほど納得できる。やみくもに排泄だけ改善させようとしてもダメなんだと勉強になる。
本書最後の症例は廊下で放尿で、介護抵抗が強く、暴力があり読むだけで困難さが伝わってくる(p292)。接触刺激に対して拒否が強く、そこから暴力につながっていたようだ。そのためリハビリテーションでは体に触れて行わず、手すりなどの環境を利用し、覚醒水準が高い午前中に排泄訓練を行い、病棟の看護師さんにも情報共有した。その他に幾つか戦略が練られ実行。この方が人の世話にならない、排泄を自分一人でやりとげるという意思が尊重されたようだ。心理士キッドウッドの「行動・心理症状はその人の心の表現であり、背景にはその人の価値や意思が存在する」という言葉が紹介され納得できる。患者さんはただ怒っている、元気をなくしている、そういうわけではないんだと気づかされる。
個人に目を向けて詳しく症例解説があるものとして『症例から学ぶ戦略的認知症診断』(福井俊哉)と『認知障害作業療法ケースブック』(池田学、村井千賀)が詳しかった。前者は問診の場面、患者さんとの細かいやり取り、画像診断が詳しく、後者は各々の患者さんの生活場面、自宅での支援、趣味嗜好を重視することなどが詳しい。後者は専門書ではあるが評価や検査以外の部分は具体的で医学医療の専門でなくても読めるかもしれない。具体的な対応が様々載っている。
薬剤の効果や一動作の運動量等に比べて、活動や生活の場面はあまりに視界が開けすぎていて、漠然として何をしたらいいかのか分かりにくいが、エビデンスを元に方針が見えてくるのは貴重である。患者さんの見ている世界は認知症によってゆがめられている。それは脳の疾患なので致し方ない。認知症を患った神経内科医の長谷川和夫先生は「以前の景色と変わらない」と病前の自身の世の中の見え方と違いはないという。主観的には変わらない。当事者の方の感じ方に思いを致すことは重要である。しかし一方で、生活上の不具合は生じ、何もしなければ困難な状態に陥るのは確かにそうだ。そこで医学、医療の知恵を結集すれば、障害による生きにくさを軽減できる。その最前線の生活の部分が改善できるようになるなら素晴らしい。本書を読みながらそのように思った。
プライム無料体験をお試しいただけます
プライム無料体験で、この注文から無料配送特典をご利用いただけます。
非会員 | プライム会員 | |
---|---|---|
通常配送 | ¥410 - ¥450* | 無料 |
お急ぎ便 | ¥510 - ¥550 | |
お届け日時指定便 | ¥510 - ¥650 |
*Amazon.co.jp発送商品の注文額 ¥3,500以上は非会員も無料
無料体験はいつでもキャンセルできます。30日のプライム無料体験をぜひお試しください。
新品:
¥4,620¥4,620 税込
ポイント: 46pt
(1%)
無料お届け日:
3月31日 日曜日
発送元: Amazon.co.jp 販売者: Amazon.co.jp
新品:
¥4,620¥4,620 税込
ポイント: 46pt
(1%)
無料お届け日:
3月31日 日曜日
発送元: Amazon.co.jp
販売者: Amazon.co.jp
中古品: ¥4,000
中古品:
¥4,000

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
Evidence Based で考える 認知症リハビリテーション 単行本 – 2019/9/2
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥4,620","priceAmount":4620.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"4,620","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"aCX5xrjXBb7uvuVMVbsbvbXrPQ4vOD77Z4f0BMxUMSTyWo6bkOzHrgogyLIeRYFMUJrNQjhhovvBxVqo5va7b3BK8RgiKgnooxPge0SEuaF6YNtM73mfKh8Hu3afMLKfwCsMymLSXhk%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}, {"displayPrice":"¥4,000","priceAmount":4000.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"4,000","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"aCX5xrjXBb7uvuVMVbsbvbXrPQ4vOD77XSaAX8E1GJ0wZXTZCivza9Xojvn34Xg59wWcSiYtA%2FcIV%2FJ18RGlrn8z%2B984%2FZUNmO6IZgrZtu1qaxmieyPdLeLBuV0awjJnD9vZoRsZN5nhMKZpWHayUYkXt%2BGo35JHI3KrdW1IiVdwk2HcyscOSg%3D%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"USED","aapiBuyingOptionIndex":1}]}
購入オプションとあわせ買い
認知症のリハビリテーションが医療現場に浸透するなか,以前にも増して,根拠に基づいた評価や介入の実施がセラピストに求められている。
本書では,エビデンスがあり,かつ,適応と限界,アウトカムとの関連が明確に示されている最新の認知症リハビリテーションの評価法や介入法を,数多くの先行研究を踏まえて紹介している。
さまざまな時期・場所・シチュエーションにおける介入戦略の実例も豊富に提示。
認知症リハビリテーションの「臨床」と「研究」をつなぐ1冊。
目次
chapter1 リハビリテーションに役立つ 認知症の基礎知識
chapter2 根拠に基づいた 認知症のリハビリテーション評価
chapter3 根拠に基づいた 認知症のリハビリテーション介入
chapter4 根拠に基づいた 症例への評価・介入~時期別にみられる代表的認知症症例と評価・介入戦略の例~
本書では,エビデンスがあり,かつ,適応と限界,アウトカムとの関連が明確に示されている最新の認知症リハビリテーションの評価法や介入法を,数多くの先行研究を踏まえて紹介している。
さまざまな時期・場所・シチュエーションにおける介入戦略の実例も豊富に提示。
認知症リハビリテーションの「臨床」と「研究」をつなぐ1冊。
目次
chapter1 リハビリテーションに役立つ 認知症の基礎知識
chapter2 根拠に基づいた 認知症のリハビリテーション評価
chapter3 根拠に基づいた 認知症のリハビリテーション介入
chapter4 根拠に基づいた 症例への評価・介入~時期別にみられる代表的認知症症例と評価・介入戦略の例~
- 本の長さ312ページ
- 言語日本語
- 出版社医学書院
- 発売日2019/9/2
- 寸法18.2 x 1.5 x 25.7 cm
- ISBN-104260039237
- ISBN-13978-4260039239
よく一緒に購入されている商品

対象商品: Evidence Based で考える 認知症リハビリテーション
¥4,620¥4,620
最短で3月31日 日曜日のお届け予定です
残り12点(入荷予定あり)
¥4,180¥4,180
最短で3月31日 日曜日のお届け予定です
残り5点(入荷予定あり)
¥4,950¥4,950
最短で3月31日 日曜日のお届け予定です
残り2点(入荷予定あり)
総額:
当社の価格を見るには、これら商品をカートに追加してください。
ポイントの合計:
pt
もう一度お試しください
追加されました
一緒に購入する商品を選択してください。
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
出版社からのコメント
新進気鋭の認知症リハビリテーション専門家により,国内外の最新の知見を余すことなく紹介しています。
科学的根拠をもとに,リハビリテーション評価・介入における実践的な知識や具体的戦略が提示されていて,臨床現場でもすぐに活用可能です。
ナラティブを超えたエビデンスベースの認知症リハビリテーション最前線がわかる1冊です。
科学的根拠をもとに,リハビリテーション評価・介入における実践的な知識や具体的戦略が提示されていて,臨床現場でもすぐに活用可能です。
ナラティブを超えたエビデンスベースの認知症リハビリテーション最前線がわかる1冊です。
登録情報
- 出版社 : 医学書院 (2019/9/2)
- 発売日 : 2019/9/2
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 312ページ
- ISBN-10 : 4260039237
- ISBN-13 : 978-4260039239
- 寸法 : 18.2 x 1.5 x 25.7 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 199,291位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 89位作業療法学
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2020年10月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2020年8月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
イマイチです。
2020年1月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
非常に多くの文献に基づいた認知症リハビリテーションにかかる国内外の知見が網羅されており、こういった構成の書籍は稀少かと思います。研究にも有用な一冊。
2019年11月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
基本的なことを確認できてよかった。
2020年3月28日に日本でレビュー済み
EBMが求められている昨今、認知症については感覚的なリハビリが行われていることも多い現状があります。
その中でこの本は先行研究などを踏まえたエビデンスベースの理論と実践が集約されており、明日からの臨床に大変役に立つ本です。
まさに求めていた一冊でした。
その中でこの本は先行研究などを踏まえたエビデンスベースの理論と実践が集約されており、明日からの臨床に大変役に立つ本です。
まさに求めていた一冊でした。
2019年12月15日に日本でレビュー済み
表題の通りですが、どうやら作業療法士の方達が中心に書かれている本で知りたいことがあまり書かれていませんでした。中を見てから買えば良かったです。
2019年12月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
先行研究に基づいた臨床実践が多く記載されているので、人に説明するときに役に立ちました。