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米国社会科成立期におけるシティズンシップ教育の変容

社会科の誕生をめぐる包摂と排除、両義性

定価: 9,900 (本体 9,000 円+税)

20世紀初頭の米国において、なぜ「社会科」が誕生したのか? 市民育成を主目的に掲げる教科誕生の過程に注目し、「市民」を育てる教育が抱える包摂や排除の論理を描き出す。

【著者略歴】
斉藤仁一朗(さいとう じんいちろう)
1987年 奈良県に生まれる。
2010年 東北大学教育学部卒業
2012年 東北大学大学院教育学研究科博士課程前期修了
      日本学術振興会特別研究員(DC1)(2015年3月まで)
2015年 東北大学大学院教育学研究科博士課程後期修了
      博士(教育学)
2016年 東海大学課程資格教育センター助教
2018年 同大学講師
      現在に至る。 
目次を表示します。
序章 問題の所在と本研究の課題
 第一節 問題の所在と対象の限定
  第1項 シティズンシップをめぐる教育と歴史的アプローチ
  第2項 シティズンシップ教育が抱える多様性と統一性のジレンマの源泉
  第3項 「シティズンシップ教育」の歴史とは何なのか―「国民教育からシティズンシップ教育へ」の枠組みを問い直す―
  第4項 分析対象の限定化―歴史科と公民科というシティズンシップ教育の
カリキュラムの主戦場―
 第二節 先行研究の検討
  第1項 先行研究の検討の枠組み
  第2項 米国におけるシティズンシップ教育の歴史的研究
  第3項 世紀転換期の社会系教科に関する研究
  第4項 日本における米国社会科成立史(教育史)研究
  第5項 本研究の特質と意義
 第三節 研究方法と構成
  第1項 研究方法
  第2項 本研究の構成

第一章 19世紀末までの米国のシティズンシップ教育の展開
 第一節 19世紀末以前のシティズンシップ教育の展開
  第1項 米国史における統合装置としてのシティズンシップ教育
  第2項 宗教教育としてのシティズンシップ教育の存在
  第3項 独立革命期とシティズンシップ教育:「理念の国」アメリカの誕生
  第4項 コモン・スクール運動とシティズンシップ教育の主張
  第5項 19世紀のシティズンシップ教育を取り巻く変化
 第二節 世紀転換期のシティズンシップ教育が直面した諸問題
  第1項 世紀転換期の特殊性:三つの要因から
  第2項 移民の増加
  第3項 公立ハイスクールの発展と学校構成人口の多様化
  第4項 カリキュラム・教育方法研究の発展
 第三節 転換期としての19世紀末の位置づけ

第二章 道徳的政治学習から批判的政治制度学習への転換
    ―良き投票者の育成を目指して一
 第一節 古典的な政治学習の変容
 第二節 中等教育改革と新たな政治制度史学習論の台頭
  第1項 NEA十人委員会の歴史教育カリキュラム
  第2項 AHA七人委員会の歴史教育カリキュラム
  第3項 AHA五人委員会の修正案
 第三節 投票者育成を重視した政治教育論の登場
  第1項 都市問題とマシーン政治への批判
  第2項 NMLによる都市改革の二面性
  第3項 NMLのハイスクールの政治教育改革
  第4項 デービスによる政策批判学習
  第5項 フォアマンの公民科教科書
  第6項 投票者育成の排除性とそこから生まれる社会問題批判の視座
 第四節 小括一批判的政治制度学習の意義と課題-

第三章 都市改革運動とコミュニティ・シヴィックスの誕生
 第一節 都市改革運動と地域を基盤とした公民科学習―コミュニティのメンバーシップの強調―
 第二節 初等学校への公民科の導入
  第1項 NMLの初等教育プログラム
  第2項 サーストンの公民科教育論
 第三節 アーサー・W・ダンの公民科改革
  第1項 都市改革の中でのダンの公民科改革の主張
  第2項 生徒の社会参加を促す実践の特徴
  第3項 コミュニティ・シヴィックスの生活改善的な性格と「アメリカ化」
運動
 第四節 コミュニティ・シヴィックスにおける「コミュニティ」概念
  第1項 コミュニティの多元性
  第2項 政府の役割の拡大とその重要性
  第3項 コミュニティの源泉としての国家的な理念
  第4項 世界コミュニティの可能性について
  第5項 コミュニティの多元性とナショナルな排除性
 第五節 小括―シティズンシップ教育とコミュニティ―

第四章 職業的自立とシティズンシップ教育との関係性
 第一節 市民生活の基盤としての職業
 第二節 職業的自立が促された背景
  第1項 職業教育を取り巻く当時の論争点
  第2項 20世紀初頭の歴史教育の履修要件
 第三節 職業的ニーズを重視した歴史教育カリキュラムの開発
  第1項 ロビンソンの歴史教育カリキュラム
  第2項 レービットとブラウンの歴史教育カリキュラム
  第3項 グッドウィンのハイスクール商業コースでの実践
 第四節 職業準備としての初等公民科カリキュラムの開発
  第1項 フィラデルフィアの公民科カリキュラム改革の背景
  第2項 「サービス」概念を軸としたカリキュラム編成
  第3項 サービスとしての公的機関の役割
  第4項 第9学年の職業公民科の役割
 第五節 公民科教科書における職業の描かれ方
  第1項 シティズンシップと職業の描かれ方
  第2項 仕事によるコミュニティへの貢献
  第3項 自助努力を前提とした市民像
 第六節小括―市民育成と職業的自立をめぐるジレンマ―

第五章 人種的マイノリティに対するシティズンシップ教育をめぐる論争
 第一節 人種的マイノリティのシティズンシップ教育をめぐる状況
 第二節 ハンプトン・インスティチュートとジョーンズの社会科カリキュラム
  第1項 ハンプトン・インスティチュートの教育理念と展開
  第2項 ジョーンズの経歴とこれまでの評価
  第3項 ジョーンズのカリキュラム開発の背景
  第4項 ジョーンズの「ハンプトン社会科」の特徴
  第5項 ジョーンズの社会科カリキュラムの歴史的意義
 第三節 ハンプトンカリキュラム、ジョーンズへの批判
 第四節 当時の教科書における人種の描かれ方
 第五節 小括―人種主義とシティズンシップ教育、二級市民―

第六章 NEA社会科委員会報告書における市民育成とカリキュラム
 第一節 中等教育改造審議会と教科「社会」の誕生をめぐる3つの報告書
 第二節 先行研究における本報告書の論争性
 第三節 『中等教育の根本原理』と社会科委員会報告書の市民育成論の二重性
  第1項 社会科委員会と中等教育改造審議会の関係
  第2項 民主主義の教育と7つの具体目標
  第3項 シティズンシップの定義
  第4項 カリキュラムの「統合機能」と「特殊化機能」
 第四節 3つの報告書の概要と位置づけ
  第1項 3つの報告書の位置づけ、実践、考え方
  第2項 『予備報告書』について
  第3項 『中間報告書』について
  第4項 「最終報告書」について―3つの報告書に齟齬はあるのか
 第五節 『最終報告書』に見られるシティズンシップ教育のカリキュラム構想
  第1項 社会科の目標とシテイズンシップの育成の位置づけ
  第2項 カリキュラムの原則と教師の役割
  第3項 ジュニア・サイクルとシニア・サイクルにおける分化をめぐる未解決問題
  第4項 内在される「統合」と「特殊化」の思想
  第5項 カリキュラム実践上の課題―教材、教員養成の不足―
 第六節小括
  第1項 社会科に見られる多様なニーズへの包摂戦略
  第2項 NEA社会科委員会報告書で語られなかったもの
  第3項 社会科カリキュラムにおける教師の自主裁量とその支援体制
  第4項 シティズンシップ教育の二重性をめぐって

第七章 その後の20世紀前半の展開
 第一節 NEA社会科委員会の活動とその後
 第二節 専門家によるカリキュラム開発の必要性の提起―ハロルド・ラッグの批判―
  第1項 ハロルド・ラッグの社会科教育史・カリキュラム研究史における位置づけ
  第2項 カリキュラムのデザインと専門家としてのカリキュラム作成者
  第3項 背景としての児童中心主義の活動分析法への批判
  第4項 教師による実践的対応の必要性
  第5項 一般的な教師に対する支援策としてのカリキュラム・デザイン
  第6項 問題解決過程の定式化とその弊害
  第7項 ラッグの教員養成に対する言及と教師に対する懐疑心
  第8項 ラッグから見たNEA社会科委員会のシティズンシップ教育像とは
 第三節 シティズンシップの評価をめぐる変遷―主要学会誌の論文を中心に―
  第1項 シティズンシップの育成という目標を社会科教育者はどう評価しようと試みたのか
  第2項 社会科教育雑誌における目標と測定・評価への認識
  第3項 小括―評価の視点から見える市民育成の難しさ―
 第四節 シティズンシップの育成をめぐる難題

終章
 第一節 本研究の結論
 第二節 本研究から得られる示唆と課題

参考文献一覧
あとがき
著者斉藤仁一朗 著
発行年月日2021年02月20日
頁数384頁
判型 A5
ISBNコード978-4-7599-2358-2