アメリカ、ウクライナにクラスター弾供与へ 批判も多く

The remains of a cluster bomb rocket and other ordnance is collected as Ukraine Army troops dig in at frontline trench positions to continue repelling Russian attacks, east of the strategic port city of Mykolaiv, Ukraine, on March 10, 2022

画像提供, Getty Images

画像説明, ロシア軍が撃ち込んだクラスター弾などを集める前線のウクライナ兵(2022年3月、ウクライナ南東部ミコライウ)

アメリカ政府は7日、ロシアの侵攻と戦うウクライナを支援するため、クラスター弾を供与すると発表した。砲弾不足のウクライナは、数カ月前からクラスター爆弾の提供を求めていた。

クラスター弾は、1つの爆弾から多数の小型爆弾が飛び散る兵器。殺傷力が高く、不発として残った一部が民間人に危害を及ぼす危険があることから、100カ国以上で使用が禁止されている。

ジョー・バイデン米大統領は米CNNに対して、「自分にとって非常に難しい決断だった」と認めた。「同盟各国と協議し、(米連邦)議会の仲間たちとも協議した」のだと言い、そのうえでウクライナへの供与を決めたのは「ウクライナが砲弾切れになりつつあるからだ」と話した。

北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国は今月11~12日に、リトアニアのヴィリニュスで首脳会議を開く。今回の米政府の決定が、議題になる可能性もある。

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ホワイトハウスのジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障担当)は7日の記者説明で、「クラスター弾の不発弾が民間人への危害リスクを作り出すことは、認識している」、「だからこそ可能な限り今回の決定を先延ばしにしたのだ」と説明した。

サリヴァン補佐官はさらに、「ウクライナはクラスター弾を、どこかの外国で使うわけではない。自分たちの国を守ろうとしているのだ」と強調した。

サリヴァン氏は、ウクライナが砲弾不足に陥っており、アメリカが国内で兵器製造を急ぐ間、その「供与のつなぎ」となる兵器が必要なのだと話した。

「この紛争の期間中、ウクライナが無防備となる状態は一切つくらない」と、サリヴァン氏は強調した。

米報道によると、アメリカ政府が供与を予定しているクラスター弾は1発に小型爆弾88個が含まれる。発射には、すでにウクライナ軍へ供与済みの榴(りゅう)弾砲を使うことになるという。

バイデン政権がウクライナに提供する最新の武器供与パッケージは、8億ドル相当。ブラッドリー歩兵戦闘車やストライカー装甲車、対空ミサイルや対地雷装備などが含まれる。

動画説明, 2022年と2017年に米軍がアメリカ国内で実施したクラスター弾の実験映像(アメリカ国防総省画像配信システム)
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不発率2.5%以下のみと米補佐官

クラスター弾は不発率が高く、不発で地上に残った小型爆弾が数年後に爆発する危険がある。

サリヴァン補佐官は、アメリカがウクライナに提供するクラスター弾は不発率が2.5%以下で、ロシアのクラスター弾の不発率よりもはるかに低いものだと話した。アメリカ当局によると、ロシア製クラスター爆弾の不発率は30~40%だという。

サリヴァン補佐官の会見とは別に、国防総省のコリン・カール報道官は記者会見で、アメリカが提供するクラスター弾の個数は特定しなかったものの、「数十万個は提供可能だ」と話した。

アメリカは2009年の国内法で不発率1%以上の国内製クラスター弾の輸出を禁止している。これは米軍備蓄のほとんどが対象となるが、大統領は規制の適用を回避することができる。

国連はこれまでに、ウクライナがすでにクラスター弾を使用した可能性を指摘してきた。ウクライナはこれを否定している。

使用中止を求める声

ロシアによるウクライナ侵攻の開始初期、ロシアがクラスター爆弾を使用しているとの情報について当時の米大統領報道官、ジェン・サキ氏は、情報が事実ならば「戦争犯罪」に相当すると答えていた。

複数の人権団体はロシアとウクライナにクラスター弾の使用中止を求め、アメリカ政府に供与しないよう呼びかけていた。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は7日、あらためてクラスター弾の使用中止を求める声明を出した。

「クラスター弾によって、小型爆弾が広範囲に散らばり、その多くはただちに爆発しない。何年もたって人を殺害し、重傷を負わせることがある。だからこそただちに使用を中止すべきだ」と、OHCHRのマルタ・フルタド報道官は述べた。

アメリカ議会でも一部の議員はバイデン政権に、戦場でのメリットよりも人道的な損失のほうが大きいと主張し、クラスター弾供与を中止するよう求める声が出ている。

他方、国防総省のローラ・クーパー国防次官補代理(ロシア・ウクライナ・ユーラシア担当)は6月、連邦下院外交委員会の公聴会で証言し、クラスター弾は「特に地中に拠点を掘っているロシア軍部隊に対して有効」だと、軍事アナリストは分析していると説明した。

2008年に採択された「クラスター弾に関する条約」は、クラスター弾の使用、開発、生産、取得、貯蔵、保有及び移譲並びにこれらの活動を行うことについて援助、奨励及び勧誘を行わないことを約束するもの。これまでに日本やイギリスなど100カ国以上が署名している。

アメリカ、ウクライナ、ロシアはいずれも、この条約に参加していない。