国会召集先送り裁判は野党議員側の敗訴確定…裁判官1人が反対意見「安倍内閣の対応は違法」

2023年9月12日 20時55分
 安倍内閣が2017年、臨時国会の召集要求に約3カ月応じなかったのは違憲だとして、立憲民主や共産などの野党の国会議員ら6人が国に損害賠償を求めた3件の訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(長嶺安政裁判長)は12日、原告側の上告を棄却した。いずれも原告側が敗訴した高裁・高裁支部判決が確定した。5人の裁判官のうち、行政法学者出身の宇賀克也裁判官は反対意見を付けた。(太田理英子)

国会議事堂

 憲法53条は衆参いずれかの4分の1以上の議員が要求すれば、内閣は臨時国会召集を決定しなければいけないと定めている。最高裁が53条について判断を示したのは初めて。

 臨時国会の召集 憲法53条は「内閣は臨時国会の召集を決定できる。いずれかの議院の総議員の4分の1以上の議員の要求があれば、内閣は召集を決定しなければいけない」と定める。召集までの期限について具体的な規定はなく、政府は「合理的期間内」に召集を決定することが義務と解釈している。現行憲法下では計40回の召集要求があり、佐藤栄作政権時の1970年には、召集まで歴代最長の176日間を要した。

 判決は「召集要求がされた場合、内閣が召集決定をする義務を負う」とした上で「個々の国会議員の権利を保障したものではない」と指摘。個人の損害救済を図る国家賠償法の適用対象ではないとし、安倍内閣の対応の違憲性を判断せずに訴えを退けた。

◆「議員の利益の侵害」も主張

 宇賀裁判官は要求から召集までの合理的期間を「20日以内」と具体的に示し「臨時国会での審議を妨げられるのは議員の利益の侵害」と主張。安倍内閣の対応は「特段の事情がない限り違法」として賠償命令が相当とする意見を付けた。
 野党議員らは17年6月22日、森友学園や加計学園を巡る疑惑追及のため、臨時国会の召集を要求。請求議員数は衆参とも必要な人数を超えていたが、安倍内閣が召集したのは98日後で、冒頭で衆院を解散した。議員らは臨時国会で質疑や討論をする権利を違法に侵害されたとし、東京、岡山、那覇の3地裁に提訴した。
 二審で福岡高裁那覇支部と広島高裁岡山支部は「合理的期間内の召集決定は憲法上の義務」と示し、要求に応じないことは「違憲の余地がある」との一審の判断をそれぞれ支持した。しかし、3訴訟とも国家賠償法の救済対象外として訴えを退けていた。

◆【解説】義務が果たされないことを常態化させていいのか

 一、二審に続き最高裁も、重大な憲法問題から目をそむけた。憲法53条で臨時国会の召集を内閣の義務と定めているのに、政府がその義務を迅速に果たさない事態を、このまま常態化させていいのか。疑問が残る。

最高裁の敗訴判決を受け、記者会見する原告側の弁護団ら=東京・霞が関で

 野党の臨時国会の召集要求が放置された例は以前からあったが、第2次安倍政権以降は特に顕著だ。2015年9月に成立した安全保障関連法の運用などを巡って野党が召集要求した際は、応じないまま通常国会を迎えた。21年に80日間応じなかった菅政権は「憲法に召集時期の規定はない」などと反論し、召集の遅れを正当化した。
 53条を巡り、自民党は野党時代の12年にまとめた改憲草案で「要求から20日以内の召集」を義務づける内容を盛り込んだ。にもかかわらず、昨年秋に立憲民主や日本維新の会など5党が衆院に共同提出した同じ内容の国会法改正案には、まったく審議に応じる姿勢を見せていない。
 「数の支配」が生じやすい国会で、53条は少数派の意見を尊重する重要な規定だ。さまざまな国民を代表する国会議員たちの論戦の足場が失われることを放置すれば、53条の死文化にとどまらず、民主主義、立憲主義の劣化をも引き起こす。最高裁には「憲法の番人」として、この危機的な状況に正面から向き合ってほしかった。(太田理英子)
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