グルジェフは知識と理解を区別し、理解は〈存在〉の宇宙的段階に規定されると考えていた。
そして〈存在〉は人格と本質とに区別される。
Gの言う人格とは教育や模倣によって作られた自動的・機械的な自己発現の事であり、非自覚的なものである。その意味ではユングのペルソナ・アニマ・アニムスに近い概念である。
しかしGは人格を意識には含めず、非本質的な偽りの〈存在〉と捉えていた。
一方、心理学で言う人格とは無意識を含めてあくまでも意識的なものである。
このようにGの使う言葉は一般的な意味とは別の意味があたえられている事が多く、多くの誤解を生む原因となっている。
一方、本質とは人格に対比されるリアルな〈私〉だが、それは汎宇宙的な物質的実体としての水素=エッセンスの事である。「本質」という日本語から普通にイメージされるような何らかの抽象的な観念ではない。この物質としての水素がリアルな〈私〉なのであり、本質(essence)なのである。
水素=本質(エッセンス)はオクターブの法則に従った振動の密度の違いによって階層的に分類される。それが有名な「水素表」だ。
このような本質=実体説は、強いて言えばスピノザの実体、ライプニッツのモナード、カントの物自体に通じる考え方と言えよう。しかし現代科学とは全く相容れない考え方である。本書はこの本質(エッセンス)に心理学的にアプローチしており、Gの思想と現代心理学との対話の可能性を拓いたという点で画期的な意義を持っている。
グルジェフワークとは本質(エッセンス)を水素表に即してエボリューションさせる作業に他ならない。エボリューションとは創造の光を遡源する形で水素の波動を進展させる事である。それはパートクドルグ義務(意識的努力)によって宇宙的オクターブのミとファの間のインターバルを埋めるショック(半音)を作り出す事で実現される。そのショック(半音)とは人間側から見ればワークを行う人間の本質が曝け出される事によって受ける精神的ショックを意味する。だからワークにおいては必然的に人格が破壊される。従ってワークは人格的には決して好ましい結果をもたらさない。G自身、その人格を疑わせる言動を数多く残している。しかしGにとって人格とは偽りの存在に他ならないので、エボリューションの見地から人格の破壊こそが宇宙の目的に適っていると考えていた。
勿論、現実には宇宙の目的よりも個人の人格の方が大事なのは言うまでもない。グルジェフワークにはその目的において本質的な問題があるのである。
その点で本書はエッセンスが我々の意識において実際にはどのように経験されるのかを考察しており、ワークを宇宙的にではなく心理的に解説した良書である。ワークを実践しようとする人には必読の書と言える。
ただ本書は一般的な心理学の視点からGの思想を読み解いたものなので、心理学の知識がない人には理解し難いかもしれない。本書を読む前にユングの『自我と無意識』その他を読んでおいた方が良いと思われる。ユングはGとほぼ同年齢・同世代の人。やはりグノーシスや錬金術に造詣が深く、個人の個性化の問題に生涯を捧げた。その人間観はワークの本質的問題点を浮き彫りにしてくれるだろう。
宇宙と人間を結び付ける思想や、現実を超えた現実を提唱する思想には、確かに我々の心を踊らせるものがある。グノーシスや原始仏教、密教、中世錬金術などは今日でも人気がある。しかしそうした思想は歴史を通じて常に否定されている。それは否定されるだけの理由があるからだ。Gの思想もそう。
本書のような学問的視点によってのみGの思想は救われるだろう。

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覚醒のメカニズム: グルジェフの教えの心理学的解明 単行本 – 2001/1/1
- 本の長さ506ページ
- 言語日本語
- 出版社コスモス・ライブラリー
- 発売日2001/1/1
- ISBN-104434008196
- ISBN-13978-4434008191
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
何が覚醒・悟り・慈悲心の開花を妨げているのか? 「変性意識」研究の第一人者として世界に知られているタートが意識の諸状態に関する研究成果及び現代心理学の知見を駆使してグルジェフの主要な教えの核心に迫る。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2007年12月9日に日本でレビュー済み
本書に書かれている「偽りの人格」という教義が本書と同じ出版社からの別の本(複数)にも書かれています。それらはグルジェフの教えであると著者は主張しています。そのような教義をグルジェフが教えているでしょうか?検証が必要です。きわめて多くのグルジェフの言葉をまとめあげているThring著Quotations from G.I.Gurdjieff's Teachingという本がありますが、この本には「偽りの人格」という項目は載っていません。別の文脈における「本質」についての項目があるだけです。
実際には本書で述べられているような「偽りの人格」に関する教説は二次的な資料から再解釈されて、作り出したのです。
個人的な心理学的解説のひとつにとどめておけば、よかったのでしょうが、本書ではグループに参加するときの指示とかして、グルジェフの思想のガイド役まで行おうとしています。そして奇妙な自己想起技法が解説されています。こういったことはグルジェフがグルジェフ著『生は<私が存在して>初めて真実となる』で危険性を指摘しているので、そちらを参考にしてください。真に受けないのがよろしいかと思います。ほかならぬ自分の精神の健康のためですから。
実際のグルジェフの教えでは、「客観的良心」と「二重の意識構造」として、説明されており、どのように二分されたかについてはグルジェフ著『ベルゼバブの孫への話』第27章、第32章などに説明されていますが、本書ではこういったグルジェフの中心思想にはまったく触れていません。
実際には本書で述べられているような「偽りの人格」に関する教説は二次的な資料から再解釈されて、作り出したのです。
個人的な心理学的解説のひとつにとどめておけば、よかったのでしょうが、本書ではグループに参加するときの指示とかして、グルジェフの思想のガイド役まで行おうとしています。そして奇妙な自己想起技法が解説されています。こういったことはグルジェフがグルジェフ著『生は<私が存在して>初めて真実となる』で危険性を指摘しているので、そちらを参考にしてください。真に受けないのがよろしいかと思います。ほかならぬ自分の精神の健康のためですから。
実際のグルジェフの教えでは、「客観的良心」と「二重の意識構造」として、説明されており、どのように二分されたかについてはグルジェフ著『ベルゼバブの孫への話』第27章、第32章などに説明されていますが、本書ではこういったグルジェフの中心思想にはまったく触れていません。
2004年2月17日に日本でレビュー済み
副題通り、「グルジェフの教え」の「心理学的解明」を試みた本である。その為、「心理学的解明」に興味のない方には、「自動的な機械」という考えにアプローチするために繰り広げられる、まさしく「機械そのもの」を用いた譬えや、我々が通常陥っているとされる「合意的トランス(催眠)」状態についての説明は、冗長に感じられるだろう。
しかしながら、タートは後半の実践編において「自己観察」「自己想起」等のエクササイズについても語っており、その中で「超自我による自己観察」に注意を喚起したり、「現実以外にいかなる神も存在しない」ことを繰り返し思い出させている点などは、実習者にとって有益なアドバイスとなろう。また、ワークグループ、教師について注意すべき点が述べられており、彼の指針に従えば、「自分は正しい道を進んでいる」という眠りに、あるいは陥らずに済むかも知れない。グルジェフの教えに興味のある方ならば、一読に値する。
しかしながら、タートは後半の実践編において「自己観察」「自己想起」等のエクササイズについても語っており、その中で「超自我による自己観察」に注意を喚起したり、「現実以外にいかなる神も存在しない」ことを繰り返し思い出させている点などは、実習者にとって有益なアドバイスとなろう。また、ワークグループ、教師について注意すべき点が述べられており、彼の指針に従えば、「自分は正しい道を進んでいる」という眠りに、あるいは陥らずに済むかも知れない。グルジェフの教えに興味のある方ならば、一読に値する。