「推し」から発掘、首都圏の魅力 観光サイト「偏愛東京」 小さなモノに面白さ

2023年2月6日 07時07分

あなたの「推し」が観光情報になるかも。「偏愛東京」の画面(レッツエンジョイ東京提供)

 東京や首都圏で見つけた人それぞれの「推し」を投稿してもらい、観光情報の一つとして使ってもらうウェブサイトが立ち上がった。「偏愛東京」。自分が愛してやまない街や風景、店、食べ物などテーマ不問で投稿でき、実名を条件に信頼性を担保している。「偏り」の狙いとは−。

東京タワーの足元にある神奈川県小田原市のマンホール=港区で

 「実は、東京タワー近くに神奈川県小田原市のマンホールがあるんです」。先月二十四日、東京タワーで開かれた「偏愛東京」サイトの発足イベントで、「マンホール研究家」の白浜公平さん(45)が自身の偏愛の一端を披露すると、会場がざわめいた。「下を向いて歩いていると、いろいろな発見がある」と白浜さんは続けた。

真ん中には小田原市の市章が

 白浜さんに場所を聞き、行ってみると、東京タワーの文字どおりふもとに小田原市のマンホール蓋(ぶた)が確かにあった。管理者は東京タワーで、広報に経緯を聞いたが、分からないという。普段、友好都市と絵柄付き蓋の交換をしている小田原市に聞くと「五年ほど前、ネットで情報を知り、調べた。市の下水道事業は一九五九年からでコンクリート製は昭和三十年代の物。ただ、昔の職員に聞いても経緯は分からなかった」。
 このように一人の「推し」を入り口に、新たな東京を発見していくことがサイトの狙いだ。運営や協力をしているのは広告会社や鉄道、航空会社など。運営会社の一つで主に交通広告を手掛けるNKB(千代田区)の滝久雄会長は「偏愛」に着目した理由を説く。「バランスの取れた意見からは何も生まれない。新しいムーブメントをつくるのは一人のこだわり」
 投稿は誰でもできるが、「実名」が条件。運営会社の一つで東京を中心にお出かけ情報を発信する「レッツエンジョイ東京」(港区)の山口伸介社長は「明らかに実名でなさそうなものや、投稿内容はチェックし、質を担保する」と話し、続けた。「愛のある投稿ならば実名で出せるはず」

キックオフイベントに参加した応援隊長の隈研吾さん(前列左から3人目)ら=港区で

 マンホールの白浜さんのほかにも、発足イベントには「偏愛」を持つ人たちが集まった。月刊「地図中心」編集長で「境界協会」という団体を主宰する小林政能(せいのう)さんは「境界線は地図の中だけにある。実際に探していくと新たな発見の旅になる」と面白さをPR。「江東、墨田区境に境橋という橋がある。それはタカ狩りのゾーンの分かれ目でもあった」と具体例を紹介した。
 偏愛東京のサイト運営者によると、開設から十日ほどで千を超す投稿があったという。「高速道路」をテーマにした投稿グループには、風変わりな道路標識や、深い谷にそびえる巨大橋脚を推す人が投稿していた。

すり鉢状の地形を話題にした投稿(レッツエンジョイ東京提供)

 偏愛東京プロジェクトの初代応援隊長は建築家の隈研吾さん。「これまでは大きいものができると注目される競争だった。実はそういうものが都市をすごくつまらなくしていると言われ始めたし、自分も昔から東京の面白さは小さいものにあると感じていた。小さい変な物がまだまだたくさん残っている。みんなで探して目を向けるのは今の時代に合う」

街中の行き止まりを話題にした投稿(レッツエンジョイ東京提供)

 応援隊員で東京芸術大の日比野克彦学長も「一人一人の人が持つ異なる価値観を拒否するのではなく、違いを認識しつつ同じ場所にいる。それが人と街の魅力を増すことになる」と、取り組みに賛同した。
 運営者は今後、投稿を海外の人にも見てもらえるよう翻訳を検討している。人気がある偏愛テーマを表彰や認証することも考えていきたいという。
 文と写真・井上靖史
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